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4.お手本を示すべきか

  毎年6月に、課外の絵画教室でボディーペインティングを行
 っています。この活動では、子どもたちはパンツ一枚になって
 自分の身体に絵や模様を描きます。活動の終わり頃には、どの
 子も全身鮮やかな彩色で、まるでアフリカ原住民の集団のよう
 になり実に壮観です。でも活動の始めのうちは、たいていどの
 子も、自分の身体に絵の具をつけることにかなり抵抗感を感じ
 ます。そんな時は、先生が率先して自分の腕や顔などに絵や模
 様をどんどん描いてみせること、すなわち、お手本を示すこと
 が大切だと思います。 

  さらに考えを進めてみましょう。「ものをつくる」という意
 味の「せいさく」を漢字で書くと制作と製作の二つがあります。
 ここでは、クリエイティブな「せいさく」を制作、それ以外の
 「せいさく」を製作と表現させていただくことにします。さて、
 クリエイティブでない製作活動にも、幼児にとっては立派な教
 育的価値があります。なぜなら「手を使って何かを作る」とい
 うこと自体に、幼児の思考力を発達させるきわめて重大な働き
 があるからです。このような製作活動においては、先生がお手
 本を示すのはごく当たり前で自然なことだと思います。具体的
 には折り紙や、その他「物作り活動」の中でも、作り方の道筋
 がほとんど決まっているような活動です。

  しかし、創造性を追求する制作活動ではどうでしょう。先生
 がお手本を示してしまうと、いくら「同じでなくていいのよ」
 と言っても、非常にまずいことに、子どもたちは先生の真似を
 しようとしてしまいます。その結果、どの子の作品もみな似た
 りよったりで、その子らしさの無いつまらないものばかりにな
 ってしまいます。だから制作上どうしても必要な説明はしない
 といけませんが、先生は子どもたちの前で作品そのものを作っ
 てしまったり、あらかじめ作っておいた物を見本として子ども
 たちに見せてしまわないほうが良いです。見本は子どもたちの
 表現の可能性を著しく狭めてしまいます。

  幼児の絵画・造形活動も基本的には制作であり、製作ではな
 いと思います。ただ「制作としての絵画・造形活動」の中に、
 部分的に「製作活動もある」のだと思います。そういう意味で
 は、部分的な局面で先生がお手本を示すのは悪くないと思いま
 す。例えばハサミの使い方など道具の使用法は、お手本を示し
 て丁寧に教えてあげるべきでしょう。いずれにしても、指導よ
 ろしきを得た絵画・造形作品は、作った子どもたちが一人ひと
 り違った人間であるのと同様、必ず多様性に満ちたものになる
 はずです。
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a.ウサギさんがお散歩しているところ (絵の具、コンテ、サインペン)
b.窓からパパが葉っぱを見ているところ (絵の具、コンテ、サインペン)
c.カメさんがごはんを食べてるところ (絵の具、コンテ、サインペン)

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